三遊間に抜けたかな、と思った打球でも、ススっと簡単に捕球しアウトにしてくれるショート。
右中間の広いところに打たれた大飛球を、グローブの先っぽギリギリでナイスキャッチをするライト。
センターに抜けそうな鋭いゴロを、セカンドベースの前で逆シングルで捕り、ジャンピングスローを見せるセカンド。
「あの選手、いっつも良いところに守っているな!」
「あの選手のところに打ってしまったら確実にアウトだ。」
そのような守備範囲の広い選手や球際に強い選手がいることは、ピッチャーにとって心強いですよね。
広島カープの菊池選手の守備は、常人では出来ないと思われる華麗なファインプレーを何度も見せてくれますね。メジャーも驚かせた、世界でもトップレベルの守備範囲と技術を持った選手です。
菊池選手のプレーは、「野生の勘」と表現されることがあります。
しかしながら本人は、ただの思い付きの「勘」ではなく、今までの経験の中で培われた絶対的な「感覚」だと言っています。
菊池選手の言う経験から得られる絶対的な「感覚」とは、いったい何なのでしょうか?
事前の準備が守備範囲を広げ、ファインプレーにつながる。
野手のファインプレーは、ピッチャーが投げるより前から行う、あらゆる「準備」があってこそ出来るものです。
何も考えずに、ただ突っ立って守っているだけでは、本当のファインプレーは生まれません。
実際の試合中に行う守備の「準備」は、たった数秒の間に行われます。
でも、その数秒間で頭と体をフルに使い、すべての準備を行わなければいけません。
一流の選手は、それを無意識のうちに行っているのでしょうね。
バッターをよく観察する
バッターの打つ打球がどこに飛んでくるかが事前にある程度分かれば、安心して守れるはずですね。
守備の準備で最も大切なことの一つは、バッターをよく観察することです。
バッターを観察することで100%ではないにしても、なんとなくここに飛んで来そうだなということは事前に察知することができます。
打者を見るポイントは、たくさんあります。
- 立ち位置
- 構え
- スイングの軌道、角度、打球方向
- 前の打席を振り返る(打球の傾向)
- バッターの肩のライン
- ネクストバッターズサークルでの素振り
- 目線
バッターボックスのどの位置に立っているのか。
前側なのか後ろ側なのか。内側によっているのか外に離れて立っているのか。
立ち位置によって、バッターの狙い球がわかる時もあります。
どういう構え方をしているのか。
腕の位置、グリップの位置、バットの握り方、スタンスの幅。膝の曲がり、腰のひねり具合。
スイングした時の力の入り具合やスイングの軌道や角度。
オーバースイングなのか当てに来ているのか。
ステップするときの脚の上げ方・下ろし方、方向。
ファールを打った時のバットの振り方や打球の方向。
ありとあらゆる情報からバッターの技術や心理面まで読むことができます。
集中して観察すればするほど情報収集できるので、集めた情報の分だけ「打球の読み」の精度は上がっていきますね。
仁志敏久さんは、この「観察と集中力」の準備をしておくだけで、実際に打球が飛んできたときの一歩目の反応に違いがでる、とおっしゃっています。(プロ野球見えないファインプレー論 (SB新書) [ 仁志敏久 ])
また、注意して見るべき点として、「肩のライン」(両肩を結ぶライン)がどのような動きで打ちにくるのかを見ているそうです。
肩のラインが開き加減であったり、回転しながら打ちに来たりすれば、当然ながら引っ張り傾向にあると推測できます。一方で、センター返し、または右中間、左中間方向への打球が多いタイプはラインは開きもせず閉じもせずとなり、完全に逆方向へ流すタイプは、ラインが閉じ気味でうちに来る傾向があります。(プロ野球見えないファインプレー論 (SB新書) [ 仁志敏久 ])
私は、次のバッターがネクストバッターズサークルで素振りをしているところをよく観察するようにしています。
見られている方は、まさか野手に見られているとは思っていないので、素直にいま頭の中で考えている通りのスイングをしてくれます。
インコースを狙っているのか、右打ちをしようとしているのか、バントをしようとしているのか。
打席でのスイングをリハーサルしているわけですね。
守りながら横目でチラッっと見ることで意外な情報を得られたりするので、おすすめです。
また、1・2番バッターや足の速いバッターなどの場合、目線を見ることでセーフティバンド狙いがわかる場合があります。
とくにサードを守っているときは、バッターが近くて目の動きがよく見えるので、「このバッター、セーフティバントを狙ってるな」とすぐわかります。
そういうときは、守備位置を深く守ることで、わざとバントをさせるように誘導することもありますね。
ポジショニング
バッターの動きを鋭く観察できたら、守る位置(ポジショニング)をイメージします。
そこでは、もちろんピッチャーが投げる球種やコースの影響などもあります。
「このバッターは、変化球に合ってないから、カーブにはひっかけそうだな」
「インコースには詰まりそうなスイングをしているから、ボテボテのゴロがあるぞ」
といった予測が立てられます。
ですからキャッチャーのサインを見たり、試合展開やランナーの状況を把握することも大切ですね。
キャッチャーのサインが見えない場合は、配球を読んでポジショニングをすることも必要になってきます。
バッターとピッチャーの情報だけではなく、自分の肩の強さやボールの持ち替えの速さ、脚力、スピードなども加味しながら守る深さや位置を変えましょう。
ポジショニングの一歩の違いが、きわどい打球をキャッチできるかできないかの違いになってきます。
見えないファインプレーが、そこにはありますね。
次のプレーを頭でイメージする
相手ベンチの動きや監督のサイン、周囲の様子を見ることで、相手の作戦に対する予測をすることもできます。
「右打ちを狙っていそうだから、あそこに打球が飛んで来るだろう。その時は、こう捕ってこう投げよう!」
「緩い打球が来たら、ダブルプレーは狙わずに一塁でアウトを捕ろう。」
「エンドランがありそうだ。逆を突かれないように体重のかけ方に注意しよう。」
多くの場面を頭でイメージし準備をすることで、とっさの判断が必要な時に迷うことが少なくなります。
構え方と一歩目
人それぞれ動きやすい構え方があると思います。
菊池涼介選手の構えの姿勢は、やや高いのですが、これは低い構えだと一歩目が遅くなる気がするからだという理由からです。
立浪和義さんの現役時代の構えるときのイメージは「テニスのサーブを受ける」ような感じだったそうです。
常に微妙に動いていて「静から動」ではなく「動から動」で入るという意識ですね。
外野手では、どちらか片方の脚を極端に後ろに引いて構えている選手もいますよね。半身に構えることで前にも後ろにもスムーズに動き出しやすいという理由からですかね。
あなたも最もスタートを切りやすい構えを試行錯誤し、探してみてはいかがでしょうか。
スタートの切り方
桑田真澄さんが考える守備のスタートの方法を2つ紹介します。
①バットがボールに当たる瞬間と自分がジャンプして着地する瞬間を同じタイミングに合わせ、打球の方向を見て一歩目を踏み出す。
②あらかじめ左右に小さくステップしておいて、ボールとバットが当たる瞬間に右足もしくは左足の好きな方で打球の方向に一歩目を踏み出す。
(東大と野球部と私 勝つために大切なことは何か [ 桑田真澄 ])
感覚を磨く
菊池選手が言う「感覚」は「野生の勘」とは違います。
それは、絶対的な「自信」「確信」なのではないでしょうか。
守備での自信を得る方法は、「観察と集中力」の積み重ねによる「準備」ですね。
準備ができれば、良いスタートが切れます。良いスタートが切れれば、打球まで余裕をもって走れますし送球も安定して出来るようになります。
感覚を磨いて守備範囲を広げ、ファインプレーをたくさんしましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました。